縁談やつれという言葉がある。一生に一人、できれば離婚したくないと思えば、その結婚に踏み切るまでには、どんなに考えても考え足りないということはない。私が見合いをして断られた例の一つ。仲人と私の母と相手と私と、向かい合って、まずお茶が出た。お菓子が目の前にあって、私はなるべく慎ましく見せたいと思って、菓子皿に乗ったお菓子を、楊子で細かく割っていた。そのとき、よだれが先に落ちたのだ。私は刺繍の訪問着を着ていた。その模様の上によだれが落ちた。我が家での見合いで、つい自分の家であるということで安心して私はハンカチもない。母が慌てて私の膝のよだれを拭いた。相手は優秀な青年技師で、それを早くも見てとり、縁談は壊れた。理由は、あのように食欲旺盛なお嬢さんを僕は食べさせていく自信がない、ということだった。しかし、実際の理由は、すぐよだれをたらすような娘は嫌い、だらしない、と思われたにちがいない。見合いの相手に、「人生観は、社会観は」と、たて続けに質問したときも断られた。これは鹿児島のひとで、鹿児島での見合いでは、男が先に女に質問するのだという。二つの失敗例は、私が、まだ、結婚ということの大事さに気づかず、兄の友人に会っているときと同じような気分であったのが悪かったと思う。ただ、鹿児島の方のひとには、断られてよかったとも思った。男が女より先に質問しなければならないなどというやり方は、東京ではあまり聞いたことがなかった。男尊女卑の気風の土地柄なのであろう。そして私は男女は人間として平等という、東京的風土の中で育っているのだから。
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