相場観が為替需給に与える影響についてみてみましょう。ファンダメンタルズ分析の側からは「為替相場はつまるところ、為替への需要供給(需給)で決まる」という主張がなされます。しかし、もし、為替需給というものを何か静態的なものと考えるとしたら、大きな間違いを犯すことになります。これから述べるように為替需給こそ、市場参加者の心理」や「予想」によって、ダイナミックに変化するものだからです。まず、経常取引の中でも、最も重要な部分を占める貿易取引について考えてみましょう。仮に、日本の貿易取引の動向を一年先までかなり正確に予測できたとしましょう。それは今から一年間の日本の貿易収支が予測できるということを意味します。それでは、これをもってこの分野における今後一年間の為替需給がほぼ正確に分かったということになるかといえば、答えは「ノー」です。なぜならば、「リーズ・アンド・ラグズ」と呼ばれる動きや投機による需給変化が、「市場心理」の変化によって起こってくるからです。リーズ・アンド・ラグズとは、為替相場などの見通しによって、為替決済を早めたり遅らせたりする操作をいい、通常は、輸出入取引に用いられることが多い用語ですが、同様の動きは、貿易外取引にも、資本取引にも起こってきます。日本の輸入企業を例に取れば、通常、外貨建て(多くはドル建て)で輸入契約をしていますから、決済のためには、円を対価にドルを購入しなければなりません。当然のことながら購入するドルは安ければ安いほどよいわけです。もし、市場の相場観がドル安で、輸入企業もドルがこの先下落していくと予想したとすれば、企業は為替決済を遅らせることでしょう。そして、ドルが十分下がり切ったと思った時点で、ドルを買えばよいのです。このように為替の売買を遅らせることをラグズといいます。こうしたドル買いを遅らせる動きは当然のことながら、予想されたドル需給のバランスを崩し、ドル安要因となります。もし反対に、ドルが将来上昇していくと予想されれば、実際の決済の時期まで待たずに、一年分でも二年分でも、必要となるドルを先物予約の形で手当てすることができます。為替の売買を急ぐことをリーズと呼びます。こうした動きが強まれば、それはドル上昇圧力となります。経常取引以上に、「予想」や「期待」によって為替需給に影響を与え、結果として、為替相場に大きなインパクトを与えるのは、資本取引です。日本の機関投資家がドル高を予想すれば、対外投資を積極化してくることになりますし、ドル安を懸念すれば、新規投資を手控え、すでに投資した分にドル売りヘッジをかけ、さらには、利息や配当の受け取り分についても外貨売りの先物予約を急ぐということになり、為替需給に大きな影響を与え、為替相場を動かすことになります。海外の機関投資家(例えばアメリカの年金基金など)の対日投資のスタンスも、円相場や日本の株価動向に対する見方によっても変化し、それがまた円相場の大きな変動要因となっています。